携帯電話(台湾)呉淡如
日本の携帯電話システムは、独立した規格を持っており、この国に着いたとたんに、この国で買った電話機と番号以外ほとんど電波を受け取れなくなる。日本で携帯電話を使うのは、あまり便利とはいえない。なぜか?それは、日本人は今や全国を挙げて携帯使用マナーを守っているからである。
新幹線に乗ると、車両の中にはたくさんの表示が明確に記されているが、私の乗った車両には「禁煙」だけでなく、「携帯電話を使わないでください」という警告もあった。日本ではたくさんの、どこにいても仕事に忠誠を尽くすサラリーマンがいる。彼らは携帯によって、いつでも行動を報告し、顧客と連絡しなければならない。だから携帯を切るわけにはいかないが、オンにしておくこともできない。ならどうするか?私のそばに坐った中年男性を例に取ろう。彼は携帯をマナーモードにしている。電話を受けると、小声で「もしもし」と言うのもそこそこに、私に向かって何か悪いことでもしたようにぺこぺことお辞儀をし、急いで車両と車両の連結部分まで走って行く。二時間の乗車時間に、彼はまるで忙しく働く蟻のように謙虚な態度で行ったりきたりした挙句、最後には戻ってこなくなった。たぶん、この車両の乗客に迷惑をかけることを非常に恐れたのだろう。
列車に乗ったときに携帯電話を使うなという警告があるだけでなく、日本の一般のレストランの多くも携帯電話の使用を禁止しており、あちこちで着信音が鳴り響くのを聞くことはめったにない。たとえ電話を受けたとしても、大きな声で「えっ、聞こえないよ。もしもーし、もしもーし、もっと大きな声で……」などと叫ぶ人はいないし、携帯でおしゃべりを続けて、まるで周囲の見知らぬ人たちもみな関係者で、誰もが自分の会話内容に関心を持っているかのように声高に話す人などまったくいない。劇場、映画館や人が集まる場所については言うまでもない。こうした場所には、携帯を切り忘れる人のために、電波の受信ができなくなる設備があって、ホール内ではまったく電話が受けられなくなるのだ。
私は、若い女性たちに是非提案したいことがある。男性が携帯の着信音にどう対応するかをそばで見ていてごらんなさい。そうすれば、その男性があなたを尊重しているかどうかがわかるから。人の性格は、「一事が万事」というところがある。他人を尊重せず、他人の存在に配慮しない人が、あなたを尊重するはずがない。「君のために星を取ってきてあげる」などと言われても、それはあなたの機嫌を取っているだけなのだ。台湾では、携帯電話の使用が今や氾濫の域に近づいている。法律で、バイクや車の運転中は通話が禁じられているのを除けば、映画館、コンサートホール、レストラン、会議場、講演会など、時を選ばず着信音が聞かれる。このような文明社会が受け入れがたい野蛮な行為が、台湾ではもはや変だとも思われなくなっているのだ。
「日本人の携帯マナー」 サイトより(本編集部で一部削除した) |