2009年11月20日 特別増刊(第32号)
 
秋も深まった十月。NHKの人気深夜番組「東京カワイイ★TV」が、「秋のファッション★新勢力ランキング」と題した特集で週末の日本の夜を盛り上げた。専門家の検証と街で撮影されたスナップ写真によって、東京の最新の流行を縦横無尽に語り、視聴者にファッション文化について考えてもらおうという企画だ。番組の中で精密な分析を行って視聴者の心をつかんだのは、長身でスマートで、ちょっとはにかんだ感じのすてきな男性だった。彼こそ、東京の街で13年間、23万枚もの写真を撮り続け、「ストリートリサーチの鬼」を自称するファッションデザイナー、小山隆(こやま・りゅう)さんなのである。(劉詩音・姚遠執筆)
まる13年間、愛用のカメラを携えて神宮前交差点へ、そして渋谷109前へと通いました。原宿の街は、私にとって巨大なステージのようなものです。様々な流行ファッションを身につけた若者たちが、服装によって個性を自由に表現し、青春を謳歌しています。ここでの毎日は、いわば華麗なファッションショーなのです。

人波が溢れる繁華街は、様々な色の服装が乱雑に入り乱れ、ちょっと見ただけではとらえどころがないように感じられます。しかしよく観察してみると、その中にルールや秩序を見出すことができます。このような繊細なバランス感覚が、組み合わせの美しさを構成しているのです。これらの現れてはたちまち消えていく姿をカメラに収め、そこに含まれる美の公式を分析して解き明かすプロセスは、私にとってたいへん楽しいものです。そのことによって、私の発想や創造性も大いに刺激されるのです。

こんなわくわくするような気持ちで撮影を続けてきて思うのは、観察する者だけが私のような感覚を持つことができ、情報を描写して分析するという個性において、マスメディアと比べても独自の優れたものを持っているのではないかということです。さあ、私についてきてください。流行という現象の発生の背景と歴史をお話しし、それによってその発展の未来を予測してさし上げましょう。

1996年、小山さんが商社でODMデザイン(相手先ブランドのデザイン業務)を行っていた時、バイヤーとアパレル・デザイナーに対して、コレクション情報を元にしたトレンド情報を提供したところ、情報が新鮮でないために却下されてしまった。このことから小山さんは、独自の情報源がなければこの業界でやっていくことはできないということを強く感じた。

他の人が持っていない情報をいかにして手に入れるかが、最大の難問だった。じっくり考えた末、彼は「今、街ではどのような変化が起こっているだろう?」と自分に問いかけてみた。毎日にぎやかな街で生活し、無数の人々とすれ違っていながら、一般の人のファッションや流行という、知っておくべきことを多くの人が軽視している。ファッション界やデザイナーはコレクション情報を求め、バイヤーは実際の商品に対する予測から計画を立てるのが主流であった。「ユーザーを基点とする」という考え方がまだ登場していなかった当時にあって、小山さんは、消費者に最も近い場所、すなわち「街」に注意を向けようと決心したのである。街のリサーチによって世間の流行と需要を知り、業界に情報を発信しようというわけである。

カメラを手に街に出て、彼は人波の中に美しさを発見し、若者たちの美に対する理解と独創性に驚嘆した。写真を撮って資料を集めるという作業を通じて、まるで新しい血液を注ぎ込まれたように次々に発想がわいてきた。またこれらの資料を整理分類し、似たような服が登場する確率によって、あるスタイルの服がこれから流行するのか、それとも生活になじまなくて多くの人々の支持を集めることができないかを予測した。こうした調査結果は、デザイナーがファッション界の情報を参考にする際の助けになると同時に、消費者に着眼することで、ファッションの企画設計を消費者の好みの傾向を反映させた商業的なものに変えていったのである。

ストリートリサーチには、なぜ独特の魅力と価値があるのでしょう?若い人々が自分で選ぶ服装は、プロのデザイナーの作品に比べて「未完成」な要素が含まれているため、「愛嬌」のようなものが感じられます。そこには多くの新しい発見があり、楽しさを感じたり、共感を覚えたりします。そして人々の視線がそれらに次第に適応していって、「ファッション」が誕生するのです。

多くの人は自分の服装に自信がないので、自分の着ているものでいいのかどうかを知るために、ストリートリサーチはたいへん役に立つ参考要素や判断材料になります。彼らはストリートリサーチの写真から装いの要点を発見し、そこから自分の個性的なファッションが生まれるのです。

ファッションデザインにおいて、同じ素材でも異なるデザイナーの手にかかれば、全く異なる作品になるのと同じで、ストリートリサーチも、見る人の視点や角度が異なれば、選ばれる対象も当然異なってきます。私は最も「ストリート」を重視した視点で、みなさんの役に立ち、参考になる提案をしていきたいと考えています。

これらの情報をもっと多くの人と共有するために、小山さんは2000年に「渋谷電脳リサーチ(shibuden)」というサイトを立ち上げた。当時、ファッション業界のIT普及率は低く、ネットで情報を検索するデザイナーは非常に少なかった。ところが新しいものに敏感な若者たちがネットサーフィンでファッション情報を探していて「shibuden」を発見し、閲覧者は次第に増加していった。

時間が経つにつれて、ファッション業界でもネットの使用が普及し、ネットで企画を行ったり顧客とやりとりしたりするようになった。この頃には、「shibuden」はすでにかなりのアクセス数を記録し、専門家からも一般の閲覧者からも高い評価を受けていた。小山さんにとって「shibuden」は宝であると同時に、仕事の武器でもあるのだ。

外国のデザイナーやファッション愛好者にも、「shibuden」によって日本の最新のストリートファッションをリアルタイムで伝えたいという考えから、小山さんはストリートリサーチを日英二ヶ国語表記で行うことにした。海外からの閲覧者が増加するにつれて、小山さんはこう考えた。「日本のストリートリサーチを見に来る人の多くは、日本のファッションを好むエンドユーザーなのではないだろうか?」この考えがどんどんふくらみ、彼はこれらの人々を対象にした個人ファッションブランドを立ち上げることを決意した。

ストリートリサーチの資料は、ネット化によって速報性を獲得した。常に「shibuden」を見ていれば、毎日同じように思っていた都市や人々が、実は急速に変化していて、街の流行の変遷は想像以上に速いということがわかるはずだ。そしてインターネットがあるために、最も新しい一日を捉えることができるのだ。

日本はかつて江戸時代に、世界から注目されたことがありました。時が移り、21世紀の現在になって、日本は再び世界に情報を発信する絶好の機会を迎えています。それは、日本以外では生み出すことのできない独自の流行文化です。ストリートリサーチはますますおもしろく、ますます充実したものになるでしょう。

これまでのファッションは、基本的に「パリ・コレクション」などで発表されたものから一部の要素を引き出して、新しいシーズンのファッションを構成するという正統的な道を歩むものでした。しかし我々が今行っている挑戦は、それとはまったく反対の試みです。すなわち、ベースからエッセンスを抽出し、それを組み合わせて新しい流行を生み出すというものなのです。

私の夢は、「東京ストリートファッション協会」を作ることです。東京ストリートファッションの文化的発信を行い、ファッションを通して世界中の人々と感動体験をしてゆきたいと考えています。

美しく晴れた冬の朝、ニットの帽子をかぶってコートを着た小山さんは、愛用のキャノンのカメラを持って、人々が行き交う表参道を歩いていた。そして、その鋭い目で被写体を捉えてはシャッターを切る。彼は、一日に必ず200枚以上撮影する。それは誰に強制されたわけでもなく、彼自身が自分に課したノルマである。足早な人の流れの中を歩いていきながら、小山さんの視線は次第に遠い未来に向かって投げかけられる。それは、彼が「ストリートリサーチ」によってはぐくんだ新しいブランドが誕生する瞬間である。それは彼が心をこめて育てたファッションの花が、アジアに咲き、ヨーロッパに咲き、この青い地球のすみずみにまで咲く未来の瞬間である。(取材協力:山国秀幸、柴山知久 写真提供:小山隆)


Harajyuku Street Fashion in Singapore
(「原宿ストリートファッション展」in シンガポール)

●アート展示「Wall on Vision(ウォール・オン・ビジョン)」
13年にわたりストリート・ファッションのリサーチを行っている小山隆のディレクションのもとに、彼が撮影・監修した東京のリアルストリートファッションの写真や映像をWall on Visionという新たな映像技術で見せるアートエキシビション。
・DJによるアーティスト小山の紹介 
・映像アート放映
DJによる小山氏に対するインタビュー 作品の意図するところ等。

●交流ショー
「原宿ファッション コンテストinシンガポール」原宿ストリートに「おしゃれな外国人」の姿が増えてきました。いまや世界一おしゃれな若者たちのスポットに変貌しつつある原宿ストリートに小山の「ファッションチェック」という行為を通して、シンガポール在住の若者たちにもストリートファッションのもつ楽しさ、パワーを共に体験してもらうイベントです。

日時:2010年2月6日(土) または2010年2月7日(日)のいづれか1日
場所:シンガポール Vivo City内, TANGS BEAUTY HALL

小山隆(Ryu KOYAMA)
ファッションデザイナー。東京在住。13年間に23万枚のストリート写真を撮影。2000年にウェブサイト、渋谷電脳リサーチ(shibuden)を開設し、月間アクセス数は30万を超え、ファッション業界の人々にも大きな注目を浴びている。ファッションのプロとして、流行予測の精度の高さと明確でわかりやすい分析が高い評価を受けている。様々なメディアからの取材を受け、テレビ番組にも多数出演している。

1993年 大阪モード学園卒業
1995年 ヨーロッパ遊学
1996年 上京。ストリートリサーチ開始。
1996年〜2000年 大手繊維会社でデザインから製造まで請け負うODMに従事。ストリートリサーチで学んだ独自のデザインプロセスを仕事に運用し、大手アパレルやクライアントに実績を認められる。ウェブサイトの渋谷電脳リサーチ(shibuden)を開設。
2001年 デザイナーとして、大手アパレル企業の新規ブランド事業に携わる。
2003年 東京デザインオフィース入社。
2003年〜現在 アパレルメーカーの新規ブランドデザイン、大手スポーツチェーンのPB商品デザイン、ブランドライセンス会社のデザイン管理など。

HP【渋谷電脳リサーチ】 http://www.shibuden.meguro.tokyo.jp/  
  ブログ【ストリートリサーチの鬼!】
http://apalog.com/street_research/
  店頭【STB MEMBERS】 http://member.stbox.tv/
  メルマガ【東京ショーウインドー速報】 https://www.apparel-web.com/magazine/index.html
















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