日本の夏 ― 季節を味わう
このごろ和菓子のショーウィンドーに、金魚をあしらった涼しげなゼリー状の和菓子を良く見かけるようになった。季節の和菓子として流行っているようだ。金魚はペットショップで一年中売られていて、冬になるとカエルのように冬眠するわけでもないのに、なぜ選ばれるのか考えてみたが、どうやら太陽暦7月、旧暦6月の季語だからという理由らしい。夏のしつらえに調えた和室で、縁側の風鈴の音を聞きながら団扇を片手にいただくと、風情があってさらに美味しく感じそうだ。
古くからの格式のある日本の家では、夏を迎える前の6月から7月上旬の時期にに「建具替え」をおこなう。襖や障子をはずして葦戸に。畳の上には籐筵を敷き、簾を吊るして、床の間の掛け軸を夏の意匠のものにする。着物も絽や紗でなければならない。日本の美意識は固有のもので、一種の儀式と結びついているようで伝統を感じる。
一方、日常生活の季節感はイマジネーションである。金魚と聞くと、今はいなくなった金魚売りや、祭りの縁日の金魚すくいを思い出し、懐かしくほのぼのとした気分になる。日本家屋も有形文化財として細々と保存されている現代社会では、夏、と聞いて風鈴や金魚や簾を連想し懐かしむ人間も、世代とともにやがて消える運命かも知れない。
夏の情緒を楽しみながら、目で賞美し舌で味わう日本の美意識を再認識してみてはいかがだろうか。 (西岡珠実執筆) |