映画「コクリコ坂から」が、7月16日から日本全国で上映される。宮崎駿さんが企画、脚本を担当し、息子の宮崎吾郎さんが「ゲド戦記」以来五年ぶりに監督を務める。このアニメ映画では夢のようなファンタジーの要素を排し、たいへん爽やかな青春物語が描かれる。東京オリンピック直前の1963年、横浜市のある高校で、明治時代に建てられた歴史的な意義を持つ校舎の取り壊し問題をめぐって、紛争が起きていた。学校側に抗議するために学生新聞を発行している風間俊は、16歳の女子高生松崎海に出会い、二人は次第に心を通わせていく。
この作品がこれまでのジブリ作品と最も異なっている点は、写実的であるところである。だが、ノスタルジックな気持ちにさせられる海辺の風景や高台にある家は、「崖の上のポニョ」に酷似しており、文科系の部室がひしめく建物の内部構造は「千と千尋の神隠し」の一場面を思い起こさせる。こうした中で、主人公たちの誕生の秘密や運命に導かれたかのような出会いが、清純な映像の中で我々に対して語られていく。そして、声を担当した長澤まさみさんと岡田准一さんの飾らない自然な演技によって、勇敢に前に進む高校生たちの姿が我々の前にはっきりと浮かび上がる。
16日から公開される本作品は、それに先立って1日から、東日本大震災の被災地である岩手県陸前高田市や宮城県気仙沼市などの避難所で慰問上映され、2000人あまりの人たちが、この夏の最も代表的な作品の世界最初の観客となった。これは横浜で行われた試写会より早い上映だ。現場を訪れた宮崎駿さんはサイン会も行い、被災者を大きく勇気づけた。長澤まさみさんは、「自分が参加した作品でみんなが笑顔になったり、楽しい気持ちになってくれたら光栄だ。自分も頑張ろうという気持ちになれる。」と述べ、岡田准一さんも感動して、「エンターテインメントの力が人々を元気にさせ、みんなに力を与えられると信じており、自分もとても嬉しい」と語った。
この作品は宮崎駿さんが着手しようと考えてから、実はすでに数十年の時間が経っている。だが、本作品が人々に呼び掛ける「上を向いて歩こう」というメッセージは、大きな打撃を受けて、迷いの中にいる日本人が今最も必要としているものかもしれない。「コクリコ坂から」が酷暑の日本で上映されて、横浜港などのシーンが一服の清涼剤となると共に、人々に落ち込まずにがんばっていこうとする気持ちを与えてくれることを願っている。(緋梨執筆)